北海道文教大学 研究紀要 第32号 -2008年3月-
荒井 三津子・清水 千晶
Ⅰ.緒言 年中行事や冠婚葬祭の食卓は、単調になりがちな食生活に刺激を与える。食に関する縁起かつぎや、ことわざ、言い伝えは、ハレの食卓ば、日常にも生かされている。松本(2005)は年中行事が生活文化の根幹をなすものであることに着目して、特に今日まで伝承されてきた行事食について調査し、現代の家庭における非日常食について考察している1)。塩谷(2005)は正月料理の継承について詳細な調査を行い、多様化、個別化しつつも、正月は家族の絆を確認し、食文化を継承する貴重な共食の機会であることを指摘した2)。非日常的なハレの食の多くは無病息災、豊作祈願、子孫繁栄、家内安全、大願成就等などを期待して供されるので、縁起がよいと言われる料理や素材が用いられることが多い。中矢等(1994)は、食い合わせに関する調査を通して、長く言い伝えられてきた事柄は、科学的な裏づけの有無に関わらず、われわれの食生活に大切な役割を果たすことを報告した3)。笠原・伊藤(2006)も、食べ物の言い伝えに関する調査を行い、現在残っている民間療法や古い食習慣等は健康を阻害しない限り伝承されるべきだと述べている4)。女性の社会進出が進み、家族の生活パターンも多様化した近年、年中行事や縁起かつぎ、言い伝え、食習慣等は、人々にどのように受け入れられているのだろうか。本研究は、近年、家族の新しい年中行事として注目される節分の恵方巻きをとりあげる。恵方巻きの起源については諸説あり、学問としてすでに岩崎(2003)が詳しく論じている5)。だが中食の画期的な行事食として、恵方巻きは年々形を変えて提案されており、その商戦と受容の変化は注目に値する。本研究は節分の巻き寿司に関する先行研究と民間の研究所や調査機関等の報告書を整理し、今回調査した結果を比較検討して、恵方巻きという食文化の現代における誕生と流行の背景、意味するものを、販売商戦と合わせて広く学際的に考察する。
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